水彩絵具の耐光性テスト 1
- Yuiko Hosoya

- May 12, 2021
- 4 min read
Updated: May 19, 2021
水彩絵具の耐光性テストについて、2回に分けて書いていきたいと思います。今回は、耐光性と、その重要性について。次回は、独自テストをする方法についてです。私自身、勉強中なので、間違いがあれば、ぜひご指摘ください。
耐光性とは?
絵の具に使われている顔料には、紫外線にさらされることにより退色する性質があり、これを「耐光性(Lightfastness)」といいます。
絵描きの場合、スケッチブックにしか絵を描かない場合とか、描いた作品をスキャンして、印刷物として発表する場合は、特に耐光性について気にする必要はないのですが(もっとも、印刷に使われる顔料や染料にも当然、耐光性があります)、原画を展示・販売する可能性がある場合は、耐光性を気にする必要があります。
かわいい色だからといって耐光性が弱い絵の具を使い、販売したした場合、「窓の近くに飾っておいたら、数年で色あせてしまった」ということがないとも限らないからです。写真作品のように複製できるものは、同じイメージを作り直すことも可能ですが、絵画の原画は一点ものなので、まったく同じものを描くことは不可能です。代替品を渡せばいいというものでもありません。現段階で販売予定がないものであっても、展示、譲渡、販売の可能性がゼロではない場合、耐光性の強い絵の具を使いたいところです。
どうやって調べるの?
「耐光性」は、一般的に販売されているプロ仕様の絵の具であれば、容器や、公式ウェブサイトで、絵の具の詳細を見れば耐光性が明記されています。プロ仕様かどうかは、「ウィンザー&ニュートン・プロフェッショナル水彩」のように「プロフェッショナル」という文言が使われているか、ロイヤル・ターレンスの「レンブラント」(プロ仕様)と「ヴァン・ゴッホ」(学業用)というように、ブランド名として分けている会社もあります。
上記のブランドや、その他大手の絵の具製造・販売会社は、学業用であっても耐光性が明記されていますが、耐光性を明記していない会社や商品はプロ仕様ではないと判断した方がいいと思います。
※プロ仕様でないものが悪いわけではなく、使用目的により適したものがあると思いますが、今回は「展示・販売の可能性」をふまえた絵画に使う絵の具ということを前提に書いていきます。
耐光性は何を表しているの?
耐光性が表しているものは、絵画の場合「美術館で展示した場合、色あせずに何年もつか」の指標です。耐光性試験を行っているいくつかの専門機関による指標を標準として、絵の具などを販売する各社に採用されており、「I~V」のローマ数字や、「1~8」のアラビア数字、「*~*****」(あるいは「+」)の星マークで明記されていることが多いです。
その指標で一般的なのがASTMスケールで「I~V」(I=絶対堅牢(耐光性が強い)、V=もっとも弱い)で示されています。もう一つはBlue Woolスケールで、「1~8」(7, 8が、LFIに相当)で示されています。他にも「*」(+)という星マークの指標があり、5つ星を採用している会社(シュミンケやホルベインなど)と、3つ星を採用している会社(レンブラントなど)があります。5つ星の場合、「*****、****==BW8、7」で「絶対堅牢」、「***」がBW6、5で「とても堅牢」、「*」が最低のBW1で、「変色する」となります。3つ星の場合、「***」が7&8相当、「**」が5&6、「*」が3&4です。
(参照:https://www.schmincke.de/en/information/did-you-know/lightfastness.html)
その会社独自の耐光性テストによって試験された指標が描かれている場合もあります。Winsor & Newtonは、Permanence(永続性)といった言葉で、AA, A, B, Cという独自指標があり、AAがLF I相当、CがLF V相当です。
自分で耐光性テストをする
耐光性が明記されていても、この表示が必ずしも信用できないことがあるので、念のために自分で耐光性テストをしている作家が多く、私もその一人です。なぜ信用できないかというと、従来、耐光性にやや劣る顔料であっても、配合などは各社違うので、自社テストで「耐光性あり」評価となった場合、「堅牢(***とか、LFI)」と表示したりすることがあるためです。マイメリブルーの「***」は自社基準で「絶対堅牢」ですが、インディゴ(NB1)も「***」評価になっています。インディゴは染料で、染料は得てして耐光性に劣るので、マイメリブルーのインディゴだけ耐光性が強いということは考えにくいです。PV23やPB27は、条件によって耐光性が異なるので、使う場合は独自テストが必要でしょう。「オペラ」という大変鮮やかなピンクの絵の具はとても人気がありますが、PR122というキナクリドン系の顔料のほかに、すぐに退色してしまう蛍光色で鮮やかさを出しているので、どのブランドでも「著しく変色しやすい」になっています。

また、絵の具はたくさん希釈して使った場合に耐光性が弱まることがあります。水彩絵具はそもそも水で薄めて使うものなので、独自の耐光性テストをする場合は、より慎重に「希釈しない」バージョンと「希釈」バージョンでテストする必要があります。ダニエル・スミスの人気色「Moonglow」は、ダニエル・スミス社によれば「LFI」で絶対堅牢ですが、使われている顔料のPG18、PB29、PR177のうち、PR177というアントラキノン系の赤は、希釈した場合に退色する傾向があるため、Moonglowも程度の差はあれ退色するようです。
ちなみに評価が表す数字が、「美術館で展示した場合に何年保つか」は下記のとおりです:
LFI、BW7, 8=「絶対堅牢」「優れた耐光性」=100年以上
LFII、BW6=「堅牢」「非常に良い耐光性」=50~100年
LFIII、BW5, 4=「比較的堅牢」「公平な耐光性」=15年~50年
LFIV、BW2, 3=「耐光性が悪い」「変色しやすい」=2~15年
LFV、BW1=「耐光性が非常に悪い」「著しく変色しやすい」=数年
(参照:https://en.wikipedia.org/wiki/Lightfastness)など
次回は、独自テストをする方法について書きたいと思います。





Comments